相続分の譲渡と相続税の申告について

相続分の譲渡と相続税の申告について

相続分の譲渡とは?

母が亡くなり、長女(A)長男(B)次男(C)の子3人が相続人です。
法定相続分は各3分の1ずつです。遺言書はありません。遺産分割が必要ですが、長女(A)と次男(C)の折り合いが悪く、とても3人での遺産分割協議はまとまりそうにありません。長女(A)は次男(C)ともめたくありません。長男(B)は次男(C)との話し合いが可能です。

こんなとき、長女(A)は長男(B)に有償または無償で相続分(相続人の地位そのもの)を譲渡します。そうすると、長男(B)の取得分は長女(A)の法定相続分と合わせて、3分の2となります。一方で、相続分を譲渡した長女(A)は、相続人としての地位を失い、遺産分割協議での発言権を失います。結果、遺産分割協議書は、長男(B)と次男(C)のみで作成すればよいことになります。

このように、相続分の譲渡は、遺産分割協議が長期化しそうな場合によく用いられる手段の一つです。

相続税の申告はどうするか?

相続分の譲渡は、遺産分割を短時間で円滑にすすめるために非常に有用な手段となりますが、実際に相続分の譲渡が行われた場合、課税関係はどうなるのでしょうか?

前提として、長女(A)から長男(B)への相続分の譲渡、長男(B)と次男(C)の遺産分割協議は、すべて相続税の申告期限の10か月以内にまとまったとします。また遺産分割協議において、次男(C)は3分の1を取得したものとします。

長女(A)から長男(B)への相続分の譲渡が無償でなされた場合

長女(A)については、遺産分割において、何も取得しなかったものとして扱われます。

また、相続分の譲渡を無償で受けた長男(B)については、贈与税の課税はなく、遺産分割において3分の2を相続により取得したものとして取り扱われます。

したがって、長男(B)が3分の2、次男(C)が3分の1の財産を取得したものとして、相続税の申告を行えば、課税関係は終了します。

長女(A)から長男(B)への相続分の譲渡が有償でなされた場合

例えば、相続分の譲渡が5000万円(法定相続分相当)で行われ、長女(A)が長男(B)から5000万円の現金を受け取ったとします。

この場合、相続分を譲渡したからといって、長女(A)に譲渡所得税が課税されることはなく、5000万円は相続により取得したものとして取り扱われます。

一方、相続分の譲渡を受けた長男(B)は、自己の相続分3分の2(1億円とします)から、長女(A)に渡した5000万円を差し引いた5000万円が相続により取得した財産とみなされます。

結果、税務上は、いわゆる代償分割が行われた場合と同じ取扱いとなり、この事例では、各々が法定相続分の3分の1ずつ(各5000万円)財産を取得したものとして相続税の申告を行うことになります。