出国税(国外転出をする場合の譲渡所得課税の特例)の創設|平成27年度税制改正解説
租税条約上、株式等のキャピタルゲインについては株式等を売却した者が居住している国に課税権があるとされています。これを利用し、巨額の含み益を有する株式を保有したまま出国し、キャピタルゲイン非課税国(例:シンガポール、香港)において売却することにより、課税逃れを行うことが可能な状態でした。
上記のような課税逃れに対応するため、一定の高額資産家(※)を対象に、出国時に未実現のキャピタルゲイン(含み益)に対して特例的に課税されることになりました。
※ 出国時の有価証券等の評価額が1億円以上の者であり、かつ、出国直近10年内において5年を超えて居住者であった者。ただし、在住期間要件の判定にあたっては、入管法別表第一の在留資格で居住していた期間は、居住者でなかったものとみなす。
(注)出国時の譲渡所得課税の特例を導入している国の例:アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ
また、納税資金が不十分であることを勘案し、納税猶予を選択できることとなりました。
(所得税法等の一部を改正する法律案要綱より)
国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
(所得税法第60条の2~第60条の4、第95条の2、第137条の2、第137条の3、第151条の2、第153条の2~第153条の5、第166条の2関係)
⑴ 特例の概要
国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう。以下同じ。)をする居住者が、所得税法に規定する有価証券若しくは匿名組合契約の出資の持分(以下「有価証券等」という。)を有する場合又は決済していないデリバティブ取引、信用取引若しくは発行日取引(以下「未決済デリバティブ取引等」という。)に係る契約を締結している場合には、その者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、当該国外転出の時に、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額により当該有価証券等の譲渡又は当該未決済デリバティブ取引等の決済があったものとみなす。
① 当該国外転出の日の属する年分の確定申告書の提出時までに納税管理人の届出をした場合、納税管理人の届出をしないで当該国外転出をした日以後に当該年分の確定申告書を提出する場合又は当該年分の所得税につき決定がされる場合 当該国外転出の時における当該有価証券等の価額に相当する金額又は当該未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額若しくは損失の額
② 上記①に掲げる場合以外の場合 当該国外転出の予定日の3月前の日における当該有価証券等の価額に相当する金額又は当該未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額若しくは損失の額
⑵ 特例の対象者
本特例は、次の①及び②に掲げる要件を満たす居住者について、適用する。
① 国外転出をする時における上記⑴①又は②に定める金額の合計額が1億円以上である者
② 国外転出の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間として一定の期間の合計が5年超である者
⑶ 国外転出後5年を経過する日までに帰国等をした場合の取扱い
本特例の適用を受けるべき者が、その国外転出の日から5年を経過する日までに帰国等をした場合において、その者が当該国外転出の時において有していた有価証券等又は契約を締結していた未決済デリバティブ取引等で当該国外転出の時以後引き続き有しているもの又は決済をしていないものについては、上記⑴による譲渡又は決済がなかったものとすることができる。
ただし、当該帰国等の日までの間に、当該有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る所得の計算につきその計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠蔽又は仮装があった場合には、その隠蔽又は仮装があった事実に基づく当該所得については、この限りでない。
この取扱いは、帰国等の日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより適用を受けることができる。
⑷ 納税猶予
① 国外転出をする居住者でその国外転出の時において有する有価証券等又は契約を締結している未決済デリバティブ取引等につき本特例の適用を受けたものが、当該国外転出の日の属する年分の確定申告書に納税猶予を受けようとする旨の記載をした場合には、当該国外転出の日の属する年分の所得税のうち本特例により当該有価証券等の譲渡又は未決済デリバティブ取引等の決済があったものとされた所得に係るものについては、当該国外転出の日から5年を経過する日(同日前に帰国等をする場合には、同日とその者の帰国等の日から4月を経過する日のいずれか早い日)まで、その納税を猶予する。
② この納税猶予は、国外転出の時までに納税管理人の届出をし、かつ、その所得税に係る確定申告期限までに納税猶予分の所得税額に相当する担保を供した場合に、適用する。
③ 納税猶予に係る期限は、届出により国外転出の日から10年を経過する日までとすることができる。この場合における上記⑶の取扱いは、国外転出の日から10年を経過する日までに帰国をした場合等に適用することができる。
④ 納税猶予を受ける者は、国外転出の日の属する年分の所得税に係る確定申告期限から納税猶予に係る期限までの間の各年の12月31日における当該納税猶予に係る有価証券等の所有及び未決済デリバティブ取引等に係る契約に関する届出書を、同日の属する年の翌年3月15日までに、税務署長に提出しなければならない。当該届出書を提出期限までに提出しなかった場合には、その提出期限から4月を経過する日をもって、納税猶予に係る期限とする。
⑤ 納税猶予に係る期限の到来により所得税を納付する場合には、当該納税猶予がされた期間に係る利子税を納付する義務が生ずる。
⑸ 納税猶予に係る期限までに有価証券等の譲渡等があった場合
① 本特例の適用を受けた者で納税猶予を受けているものが、その納税猶予に係る期限までに、本特例の対象となった有価証券等又は未決済デリバティブ取引等の譲渡又は決済等をした場合には、その納税猶予に係る所得税のうち当該譲渡又は決済等があった有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る部分については、その譲渡又は決済等があった日から4月を経過する日をもって納税猶予に係る期限とする。
② 本特例の適用を受けた者で納税猶予を受けているものが、その納税猶予に係る期限までに、本特例の対象となった有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の譲渡又は決済等をした場合において、その譲渡又は決済等に係る譲渡価額又は利益の額が国外転出の時に課税が行われた額を下回るとき等は、その譲渡又は決済等があった日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより、その国外転出の日の属する年分の所得金額又は所得税額の減額をすることができる。
⑹ 納税猶予に係る期限が到来した場合の取扱い
本特例の適用を受けた者で納税猶予を受けているものが、その納税猶予に係る期限の到来に伴いその納税猶予に係る所得税の納付をする場合において、その期限が到来した日における有価証券等の価額又は未決済デリバティブ取引等の決済による利益の額が本特例の対象となった金額を下回るとき等は、その到来の日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより、その国外転出の日の属する年分の所得金額又は所得税額の減額をすることができる。
⑺ 二重課税の調整
① 居住者が本特例に相当する外国の法令の規定(以下「外国転出時課税の規定」という。)の適用を受けた有価証券等又は未決済デリバティブ取引等の譲渡又は決済をした場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その外国転出時課税の規定により課される外国所得税の額の計算において収入金額に算入することとされた金額を当該有価証券等の取得に要した金額とし、又は当該未決済デリバティブ取引等の決済損益額から当該外国所得税の額の計算において算出された利益の額の減算等をする。
② 本特例の適用を受けた者で納税猶予を受けているものが、その納税猶予に係る期限までに本特例の対象となった有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の譲渡又は決済等をした場合において、その所得に係る外国所得税を納付することとなるとき(当該外国所得税に関する法令において、当該外国所得税の額の計算に当たって本特例の適用を受けたことを考慮しないものとされている場合に限る。)は、当該外国所得税を納付することとなる日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより、当該外国所得税の額のうち当該有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る契約の譲渡又は決済等により生ずる所得に対応する部分の金額として計算した金額は、その者が国外転出の日の属する年において納付することとなるものとみなして、外国税額控除を適用することができる。
⑻ 贈与、相続又は遺贈により非居住者に有価証券等が移転する場合
次に掲げる要件を満たす居住者が有する有価証券等又は締結している未決済デリバティブ取引等に係る契約が、贈与、相続又は遺贈(以下「贈与等」という。)により非居住者に移転した場合には、その居住者の事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、その贈与等の時に、その時における当該有価証券等の価額に相当する金額又は当該未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額若しくは損失の額により、当該有価証券等の譲渡又は未決済デリバティブ取引等の決済があったものとみなす。
① その贈与等の時において有している有価証券等及び契約を締結している未決済デリバティブ取引等のその贈与等の時における有価証券等の価額並びに未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして算出した利益の額又は損失の額の合計額が1億円以上である者
② その贈与等の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間として一定の期間の合計が5年超である者
⑼ その他所要の措置を講ずる。
(注1)上記(⑺①を除く。)の改正は、平成27年7月1日以後に国外転出をする場合又は同日以後の贈与等について適用する。(附則第7条、第8条関係)
(注2)上記⑺①の改正は、平成27年7月1日以後に国外転出に相当する事由等が生ずる場合について適用する。(附則第9条関係)
(参考)財務省ホームページ : 第189回国会における財務省関連法律 参考資料