京セラアメーバ経営-時間当り採算制度-
(1)前号では、京セラ創業者稲盛氏和夫氏の「経営のための会計学」の7つの基本原則について概説しましたが、本号では、京セラアメーバ経営の中で会計学に密接に関連している部分、すなわち採算を向上させるため非常に重要な役割を果たしている管理会計システム、「時間当り採算制度」について説明していきます。
(2)時間当り採算制度とは
時間当り採算制度とは、「売上を最大に、経費を最小に」という経営の原則を実現していくために、売上から経費を差し引いた「差引売上」という概念をとりいれたものです。
この差引売上は、一般的な経済用語でいう「付加価値」と呼ばれるものに近いものです。
(3)製造部門アメーバ 時間当たり採算表(例)
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項 目 計算式 金額
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総出荷(グロス生産高) (千円) A(=B+C) 60,000
社外出荷 (千円) B 35,000
社内売 (千円) C 25,000
社内買 (千円) D 10,000
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総生産(ネット生産高) (千円) E(=A-D) 50,000
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控除額 (千円) F 30,000
(内訳)原材料費 (千円) 10,000
外注加工費 (千円) 5,000
: (千円) :
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: (千円) :
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差引売上(付加価値) (千円) G(=E-F) 20,000
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総時間 (時間) H 4,000
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時間当り (円/H) I(=G/H) 5,000
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(4)「時間当り(I)」
上記表で、「総生産(E)」から「控除額(F)」を差し引いた「差引売上(G)」がアメーバの
儲け、すなわち「付加価値」となります。
時間当り採算制度では、この「付加価値」をできるだけわかりやすい表現にするために単位時間当りの付加価値にひきなおし、この指標を「時間当り(I)」と呼ぶことによって、現場で作業している従業員にも採算が簡単に理解できるようにしているのです。
(5)「総生産(E)」
時間当り採算制度では、社内売買(C・D)も「マーケットプライス」により行われます。
したがって、各アメーバの「総生産(E)」を合計すれば、そのまま会社全体が客先に出荷する生産高となります。この結果、社内向けの生産しかしていないアメーバでも、その「総生産(E)」は会社全体の生産高に貢献していることが明確に認識できるようになり、会社としての一体感も高めることができるのです。
(6)アメーバ経営の目的
このように、各アメーバはそれぞれがプロフィットセンターとして運営され、あたかも一つの中小企業であるかのように活動しますが、その目的は、アメーバ同士をはげしく競争させることではなく、アメーバ同士がともに助け合い、また切磋琢磨し合う結果としてともに発展していくこと、そしてアメーバ間の取引が市場ルールでなされることにより、社内の取引に対しても「生きた市場」の緊張感やダイナミズムを持ち込むをことを目的としています。