退職金を受け取りたい‐医療法人のすすめ
個人病院において、院長やその配偶者にとっては、「万が一のことがあったとき」「後継者に事業を承継したとき」に退職金を受け取りたいところですが、個人開業の場合、遺族または本人は退職金を受け取ることができません。
医療法人では退職金を受け取れます 。
医療法人成りすると、院長やその配偶者は、遺族または本人として、医療法人から死亡退職時には「死亡退職慰労金、弔慰金、特別功労金」を、また通常退職時には「退職慰労金、特別功労金」を受け取ることが可能になります。支給した退職金等はその額が適正額の範囲内であれば、医療法人はその退職金等の金額を全額損金に算入することができます。
死亡退職時の「死亡退職慰労金、弔慰金、特別功労金」
①一般的な計算式
死亡退職金
最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率(3倍程度)
弔慰金
業務上の死亡の場合:最終報酬月額×36ヶ月
業務外の死亡の場合:最終報酬月額×6ヶ月
特別功労金
特別功労者には死亡退職金の30%を超えない範囲で特別功労金を加算
②税務上の取扱い
死亡退職金・特別功労金
適正額であれば医療法人はその全額を損金に算入することができます。
受給した遺族に対する相続税の関係では、「500万円×法定相続人の数」が相続税の非課税となります。
弔慰金
適正額であれば医療法人はその全額を損金に算入することができます。
遺族が受給した弔慰金は上記の範囲内であれば全額が相続税非課税です。
通常退職時の「退職慰労金、特別功労金」
①一般的な計算式
退職慰労金
最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率(3倍程度)
特別功労金
特別功労者には死亡退職金の30%を超えない範囲で特別功労金を加算
②税務上の取扱い
退職慰労金・特別功労金
適正額であれば医療法人はその全額を損金に算入することができます。
受給した本人は退職所得として分離課税が行われます。退職所得には退職所得控除がありますのである程度は非課税で処理できます。
「みなし退職」の利用
税法上、理事としての地位や職務の内容が著しく変動し、実質的に退職したのと同じであると認められたときには、その理事に対して退職金の支払いができ、その金額を損金に算入することができます。たとえば、理事が役割変更などによって降格したようなときは、実質的に退職したとみなして退職金の支払をすることができます。このときに支払う退職金を「みなし退職金」といいます。具体的には、①常勤理事が非常勤理事になった場合(ただし、代表権・経営権を握っている場合は除きます)②理事が監事になった場合(ただし、経営権を握っている者等は除く③役割変更後、報酬がおおむね5割以上減少した場合に「みなし退職金」の支給が可能になります。
この方法は、予期せぬ収益があったときなどには、高額の退職金を損金算入できますので節税対策として有効です。また自社株対策としても有効です。なお、同族会社の場合、実質的に経営権を握っている者やオーナーである役員については、単に監査役になったという理由だけでは退職金の支払が認められないケースもありますので、注意してください。
退職金の支給財源
退職金の支給財源は、医療法人で損金算入可能な保険にて確保しておくと、節税と財源確保の両方の効果を得ることができます。
医療法人の役員退職慰労金・弔慰金支給規定モデル
【医療法人の役員退職慰労金・弔慰金支給規定モデル】〔役員退職慰労金・弔慰金支給規定〕
第1条(総則)
当法人の理事または監事(以下役員という)が退職したとき、または役掌が大きく変更し、日常実務に関与しなくなったときは、総会の決議を経て退職慰労金を支給することができる。
第2条(基準額)
退職した役員に支給すべき退職慰労金は次の各号のうちいずれかの額(以下、基準額という)の範囲内とする。
1.この規定に基づき理事会が決定した金額にして、社員総会において承認された確定額。
2.この規定に基づき計算すべき旨の社員総会の決議に従い、理事会が決定した額
第3条(基準額の計算)
退職慰労金の基準額は、第5条及至第7条により増減する場合を除いて、次の各項目をそれぞれ乗じた額とする。
1.退任時最終報酬月額
2.役員在任年数
3.退任時役位別倍率
ただし、算出額に万円未満の端数がある場合は万円単位に切り上げる。
退任時役位 倍率
1.理事長 ○.○
2.常任理事 ○.○
3.非常勤理事 ○.○
4.常勤監事 ○.○
5.非常勤監事 ○.○
第4条(在任期間)
1.役員在任年数は1カ年を単位とし、端数は月割とする。ただし、1カ月未満は1ヶ月に切り上げる。
2.役員がその任期中に死亡し、またはやむを得ない理由により退職したときは、任期中の残存期間を加算することができる。
第5条(功績加算)
特に功績が顕著と認められる役員に対しては、第3条により計算した金額にその30%を超えない額を限度として加算することができる。
第6条(弔慰金)
任期中に死亡したときは、次の金額を弔慰金として支給する。
1.業務上の死亡の場合=死亡時の報酬月額×36ヶ月分
2.その他の死亡の場合=死亡時の報酬月額×6ヶ月分
第7条(特別減額)
退職役員のうち、在任期間中特に重大な損害を法人に与えた者に対しては第3条により計算した金額を減額、または支給しないことができる。
第8条(支給時期)
退職慰労金の支給時期は、原則として社員総会の決議または承認後○ヶ月以内とする。
第9条(死亡役員に対する退職慰労金)
1.在任中死亡した役員または退任後に死亡した役員に対する退職慰労金は遺族に支給する。
2.遺族とは、配偶者を第1順位とし、配偶者がいない場合には、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順位とする。なお、該当者が複数いるときには代表者に対して支給するものとする。
第10条(相談役・顧問)
この規定は、退職した役員を相談役または顧問等の名義をもって任用し、相当額の報酬を支給することを妨げるものではない。
第11条(生命保険契約の締結)
1.法人は退職慰労金の支払いに関し、一時的な資金負担を軽減するため、○○生命相互保険会社と役員を被保険者とする生命保険契約を締結する。
2.役員が退職したときは退職慰労金の全部または一部として、この保険契約上の名義を退職役員に変更の上保険証券を交付することがある。この場合、保険契約の評価額は解約払戻金相当額とする。
3.新任の役員については、就任後速やかに加入手続きをとるものとする。
第12条(使用人兼務役員の取扱い)
この規程により支給する退職慰労金のなかには使用人兼務役員に対し使用人として支給すべき退職給与金を含まない。
第13条(規程の改正)
1.この規程は理事会の決議をもって臨時改正することができる。
2.前項にかかわらず、既に社員総会において決議を得た規定の役員に対して支給する退職慰労金は、決議の時に効力を有する規程による。
第14条(施行日)
この規程は、平成 年 月 日から施行し、施行後に退職する役員に対して適用する。