「広大地の評価」の廃止と「地積規模の大きな宅地の評価」の新設-平成29年度税制改正解説
平成 29 年度税制改正大綱を受け、広大地の評価について、財産評価基本通達の改正が予定されています。
平成 29 年度税制改正大綱(抜粋)
相続税等の財産評価の適正化
相続税法の時価主義の下、実態を踏まえて、次の見直しを行う。
広大地の評価について、現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する。
(注)上記の改正は、平成 30 年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用する。
「広大地の評価」は平成29年で廃止
現行の「広大地の評価」に関する財産評価基本通達24-4は削除され、「広大地の評価」は平成 29 年 12 月 31 日までの相続・贈与をもって廃止されます。
財産評価基本通達
(広大地の評価)【廃止】
24-4 その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条((定義))第12項に規定する開発行為(以下本項において「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(22-2((大規模工場用地))に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいう。)を除く。以下「広大地」という。)の価額は、原則として、次に掲げる区分に従い、それぞれ次により計算した金額によって評価する。(平6課評2-2外追加、平11課評2-12外・平12課評2-4外・平16課評2-7外・平17課評2-11外改正)
(1) その広大地が路線価地域に所在する場合
その広大地の面する路線の路線価に、15((奥行価格補正))から20-5((容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価))までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額
(2) その広大地が倍率地域に所在する場合
その広大地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額を14((路線価))に定める路線価として、上記(1)に準じて計算した金額
(注)
1 本項本文に定める「公共公益的施設用地」とは、都市計画法第4条≪定義≫第14項に規定する道路、公園等の公共施設の用に供される土地及び都市計画法施行令(昭和44年政令第158号)第27条に掲げる教育施設、医療施設等の公益的施設の用に供される土地(その他これらに準ずる施設で、開発行為の許可を受けるために必要とされる施設の用に供される土地を含む。)をいうものとする。
2 本項(1)の「その広大地の面する路線の路線価」は、その路線が2以上ある場合には、原則として、その広大地が面する路線の路線価のうち最も高いものとする。
3 本項によって評価する広大地は、5,000平方メートル以下の地積のものとする。したがって、広大地補正率は0.35が下限となることに留意する。
4 本項(1)又は(2)により計算した価額が、その広大地を11((評価の方式))から21-2((倍率方式による評価))まで及び24-6((セットバックを必要とする宅地の評価))の定めにより評価した価額を上回る場合には、その広大地の価額は11から21-2まで及び24-6の定めによって評価することに留意する。
「地積規模の大きな宅地の評価」が平成30年より新設
代わりに、平成30年1月1日以後の相続・贈与からは、「地積規模の大きな宅地の評価」が新設され、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価することとされました。
地積規模の大きな宅地の判定について、地区区分や都市計画法の区域区分等を基にすることとされ、適用要件が明確化されました。
財産評価基本通達
(地積規模の大きな宅地の評価)【新設】
20-2 地積規模の大きな宅地(三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいい、次の⑴から⑶までのいずれかに該当するものを除く。以下本項において「地積規模の大きな宅地」という。)で14-2((地区))の定めにより普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在するものの価額は、15((奥行価格補正))から前項までの定めにより計算した価額に、その宅地の地積の規模に応じ、次の算式により求めた規模格差補正率を乗じて計算した価額によって評価する。
(1) 市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4条((定義))第12項に規定する開発行為を行うことができる区域を除く。)に所在する宅地
(2) 都市計画法第8条((地域地区))第1項第1号に規定する工業専用地域に所在する宅地
(3) 容積率(建築基準法(昭和25年法律第201号)第52条((容積率))第1項に規定する建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。)が10分の40(東京都の特別区(地方自治法(昭和22年法律第67号)第281条((特別区))第1項に規定する特別区をいう。)においては10分の30)以上の地域に所在する宅地
上の算式中の「Ⓑ」及び「Ⓒ」は、地積規模の大きな宅地が所在する地域に応じ、それぞれ次に掲げる表のとおりとする。
(注)
1 上記算式により計算した規模格差補正率は、小数点以下第2位未満を切り捨てる。
2 「三大都市圏」とは、次の地域をいう。
イ 首都圏整備法(昭和31年法律第83号)第2条((定義))第3項に規定する既成市街地又は同条第4項に規定する近郊整備地帯
ロ 近畿圏整備法(昭和38年法律第129号)第2条((定義))第3項に規定する既成都市区域又は同条第4項に規定する近郊整備区域
ハ 中部圏開発整備法(昭和41年法律第102号)第2条((定義))第3項に規定する都市整備区域
「広大地補正率【廃止】」と「規模格差補正率【新設】」
単純に、「広大地の評価」における「広大地補正率」と、「地積規模の大きな宅地の評価」における「規模格差補正率」を比べた場合、139%~206%相続税評価額がアップします。
地積 | 【廃止】 広大地補正率 | 【新設】規模格差補正率 | |||
---|---|---|---|---|---|
三大都市圏 ② | 増加率 ②/① | 三大都市圏以外 ③ | 増加率 ③/① | ||
500㎡ | 0.575 | 0.80 | 139% | – | – |
1000㎡ | 0.55 | 0.78 | 142% | 0.80 | 145% |
2000㎡ | 0.50 | 0.75 | 150% | 0.76 | 152% |
3000㎡ | 0.45 | 0.74 | 164% | 0.74 | 164% |
4000㎡ | 0.40 | 0.72 | 180% | 0.73 | 183% |
5000㎡ | 0.35 | 0.71 | 203% | 0.72 | 206% |
6000㎡ | 0.35 | 0.70 | 200% | 0.70 | 200% |
7000㎡ | 0.35 | 0.69 | 197% | 0.69 | 197% |
8000㎡ | 0.35 | 0.68 | 194% | 0.69 | 197% |
9000㎡ | 0.35 | 0.68 | 194% | 0.68 | 194% |
10000㎡ | 0.35 | 0.67 | 191% | 0.68 | 194% |
「地積規模の大きな宅地の評価」のその他のポイント
「地積規模の大きな宅地」の地積基準が明確に
「地積規模の大きな宅地」を、三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地と定義し、地積基準を明確化いたしました。
適用が可能な「地区区分」等が明確に
「地積規模の大きな宅地の評価」が適用される地区を、普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在するものに限定し、明確化いたしました。
- 1.市街化調整区域で宅地分譲開発行為を行うことができる区域については適用があります。
- 2.都市計画法上の容積率が400%未満(東京都の特別区は300%未満)の地区のみに適用があります。
- 3.都市計画法に規定する工業専用地域に所在する宅地については適用がありません。
「規模格差補正率」は各種補正後の価額に適用
新設の「規模格差補正率」は、対象地に係る奥行価格補正などの各種補正率の計算を行ったあとに適用されます。
「公共公益的施設用地の負担が不要の土地」や「マンション適地」でも適用可能
現行の「広大地の評価」では適用のない「公共公益的施設用地の負担が不要の土地」や「マンション適地」でも、新設の「地積規模の大きな宅地の評価」による「規模格差補正」が適用可能となるものと思われます。
※投稿時点予想。取扱いが確定し次第レポート予定です。
平成 29 年中の相続税精算課税を利用した贈与による対策
現在、「広大地の評価」の適用を予定している土地をお持ちの方は、新設の「地積規模の大きな宅地の評価」により計算した土地の相続税評価額が大幅にアップする可能性があります。
現行の「広大地の評価」の適用よる相続税評価額の方が低ければ、平成 29 年中に「相続時精算課税」を利用した生前贈与を実行したほうが有利になる可能性があります。
お持ちの土地を、現行の「広大地の評価」と新設の「地積規模の大きな宅地の評価」で評価額を試算されることをおすすめします。