平成17年度税制改正大綱にみる税制今後のゆくえ

平成17年度税制改正大綱にみる税制今後のゆくえ

(1)これからは資産所得がカギ
平成16年12月15日、与党(自民党・公明党)は平成17年税制改正大綱を発表しましたが、平成18年に控える「個人所得課税の抜本的見直し」のもと、財政再建を目指す「財務省的」な考え方が景気動向の不安を押し切った形となりました。個人の所得を勤労所得と勤労所得以外の所得に区分し、勤労所得に対しては累進税率、それもかなり累進度のきつい税率を適用し、勤労所得以外の所得に対してはそれを勤労所得とは別に低い一定率の税率を乗じて算出する、いわゆる「二元的所得課税」の観点から、金融所得課税一体化が議論されています。流れとしては、個人の勤労所得の増税は否めない状況です。他方、キャピタルゲインに対しては優遇税率が適用されています。このことから、税制が「貯蓄から投資へ」の構造改革を促していることが見てとれます。したがって今後は資産所得に注視していく必要があるでしょう。

(2)土地の償却が可能に?定期借地権の一時金に係る税制措置
従来、定期借地権の一時金は、借地人においては「権利金」として資産計上され償却は認められず、他方、土地所有者においても一時に課税されていましたが、定期借地権の一時金を、一定の契約に基づき「賃料の前払い」として一括収受する場合には、借地人、土地所有者それぞれについて、期間に応じて費用化、収益計上を可能とさせる取扱の明確化が図られる見込みです。

(3)ゴルフ会員権の損益通算の廃止は見送り
財務省「見直しの必要性はあるが、すぐにではない」
平成16年度税制改正で土地・建物の譲渡損益の通算が廃止されたことから、「次はゴルフ会員権では」と、その取扱いが注目されていました。 しかし、財務省は、長期的な視野で見れば、ゴルフ会員権が「生活に通常必要でない資産」として所得税法施行令に盛り込まれる可能性を示唆。改正する場合は、「ゴルフ会員権だけポンと出すのではなく、譲渡所得全体を見直す中で議論していく」方針であることを明らかにしています。

(4)個人住民税の均等割りの引き上げは見送りに
定率減税については最後まで調整が続き、所得税については、控除率を20%から10%に、控除限度額を25万円から12.5万円に引き下げられることとなりました。個人住民税については、控除率を15%から7.5%に、控除限度額を4万円から2万円に引き下げることに。所得税は平成18年1月から3月まで、個人住民税については、平成18年6月徴収分から実施されます。ただし、大綱には、景気動向を慎重に判断し、定率減税の縮減を取りやめる旨も明記しています。個人住民税の均等割りの引き上げは見送りとなりました。

(5)地震対策の住宅も特例対象に
平成17年度税制改正において、
①住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除、
②特定の居住用財産の買換え等の場合の長期譲渡所得の課税の特例、
③住宅取得等資金に係る相続時清算課税制度の特例、
④住宅用家屋の所有権の移転登記の税率の軽減措置、
⑤住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記の税率の軽減措置
の適用対象となる既存住宅の範囲に、地震に対する安全上必要な構造方法に関する技術的基準又はこれに準ずるものに適合する一定の既存住宅が加えられました。これにより、築年数20年超または25年超の既存住宅についても耐震基準をクリアすることにより、上記特例の適用が認められることになります。

(6)航空機リース事業などへの規制も明記 
個人(所得税)法人(法人税)それぞれに規制の網かかる
平成17年度税制改正大綱において、組合事業から生じる損失を利用して節税を図る租税回避行為を防止するための対応措置が、個人(所得税)、法人(法人税)それぞれにおいて明記されました。
第2 11その他(国税)4
不動産所得を生ずべき事業を行う民法組合等(外国におけるこれに類似するものを含む。)の個人の組合員(組合の重要な業務の執行の決定に関与し、契約を締結するための交渉等自らその執行を行う組合員を除く。)の当該民法組合等に係る不動産所得の金額の計算上生じた損失については、なかったものとみなす措置を講ずる。
(注)上記の改正は、平成18年分以後の所得税及び平成19年度分以後の個人住民税について適用する。
第2 11その他(国税)13
民法組合、匿名組合等の法人組合員(組合に係る重要な業務の執行の決定に関与し、契約を締結するための交渉等自らその執行を行う法人組合員等を除く。)の組合損失について、次のように取り扱う。
(1)組合債務の責任の限度が実質的に組合資産の価額とされている場合等に は、その法人組合員に帰属すべき組合損失のうち当該法人組合員の出資の価額として計算される金額を超える部分の金額は、損金の額に算入しない。
(2)組合事業に係る収益を保証する契約が締結されていること等により実質的に組合事業が欠損にならないことが明らかな場合には、その法人組合員に帰属すべき組合損失の全額を損金の額に算入しない。
(注)上記の改正は、原則として平成17 年4 月1 日以後に締結される組合契約について適用する。

(7)私的整理における債務免除が行なわれたときの、評価損の損金算入及び期限切れの欠損金の優先利用を認める方向へ
迅速な企業再生を支援する観点から、民事再生法等の法的整理に加え、これに準ずる一定の要件を満たす私的整理(整理回収機構や中小企業再生支援協議会が関与する私的整理および私的整理ガイドラインに基づく私的整理が対象となる見込み)において債務免除が行なわれた際、評価損の損金算入及び期限切れ欠損金の優先利用を認める措置が講じられる見込みです。

(8)タンス株の受け入れは平成21年5月31日まで延長へ 
自民党税調・実際の取得価額に限る方向
タンス株の特定口座への受け入れを延長することを決めました。現行では、平成16年12月31日までとされてい ますが、新たな措置として、平成17年4月1日から平成21年5月31日まで、タンス株の特定口座への受け入れを認める方向です。ただし、取得価額については、現行は、実際の取得価額又は平成13年10月31日の終値の80%のいずれかとされていますが、改正後は、実際の取得価額による受け入れに限定する方向です。

(9)上場廃止後保有している株式についてみなし譲渡損失の計上が可能に
上場廃止前に売却した場合は申告分離課税として損益通算が可能ですが、現行法上、上場廃止後に保有している銘柄は損金処理ができない取扱いとなっています。この取扱に対して、特定口座で管理されていた株式につき、発行会社の清算結了による無価値化損失が生じた場合には、一定の要件の下で、株式等の譲渡損失とみなす特例が創設される見込みです。

(10)その他教育訓練促進税制の創設やエンジェル税制の延長、国際課税の強化措置等が予定されています。