遺言書の有効性と遺言書を書くべき4つのケース
遺言による遺産分割を促し、相続をめぐるトラブルを防ぐ狙いで、「有効」な遺言書を条件に、平成29年度税制改正にて、相続税がかからない基礎控除額に加算される数百万円の「遺言控除」の創設が検討されていることが明らかになっています。
ここ数年は、相続税改正の影響もあってか、遺言の件数は増加傾向にありますが、年間120万件以上の相続発生に対し、遺言件数はまだ10%未満と利用がすすんでいるとは言い難く、遺産分割をめぐるトラブルも増加傾向にあります。
「遺言控除」により、相続税が減るというインセンティブと理由があれば、遺言件数はかなり増えることが予想されます。
(資料1)死亡者数
平成20年 | 平成21年 | 平成22年 | 平成23年 | 平成24年 | 平成25年 |
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114.2万人 | 114.1万人 | 119.7万人 | 125.3万人 | 125.6万人 | 126.8万人 |
※厚生労働省 平成25年(2013)人口動態統計 人口動態総覧の年次推移
(資料2)自筆証書遺言の検認件数
平成20年 | 平成21年 | 平成22年 | 平成23年 | 平成24年 | 平成25年 |
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13,632件 | 13,963件 | 14,996件 | 15,113件 | 16,014件 | 16,708件 |
※司法統計年報 家事審判・調停事件の事件別新受件数 全家庭裁判所
(資料3)公正証書遺言の作成件数
平成21年 | 平成22年 | 平成23年 | 平成24年 | 平成25年 | 平成26年 |
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77,878件 | 81,984件 | 78,754件 | 88,156件 | 96,020件 | 104,490件 |
※日本公証人連合会ホームページ 平成26年における遺言公正証書等作成件数について
遺言書とは?
一般的に作成される遺言書の大半は、「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」です。
遺言書の種類については、遺言書をご参照ください。
自筆証書遺言
「自筆証書遺言」は、本人が、遺言の全文、日付、氏名を自署し、押印する方法です。ワープロや代筆で作成したものは無効となります。印鑑は認め印でも構いません。作成した遺言書は本人が保管します。自分で気軽に作成できて、内容や存在を秘密にしておくことが可能ですが、変造、隠匿や紛失の恐れがあります。また、遺言者の死後、家庭裁判所に提出して、「検認」を受ける必要があります。封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
(参考)裁判所ホームページ 遺言書の検認
「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
自筆証書遺言を作成するためには、法律で決められた次の要件を押さえておく必要があります。このうち、どれか一つでも要件を満たしていなければ、その遺言書は法的に無効となります。
-
すべて遺言者本人が自筆で書くこと
-
遺言書を作成した正確な日付を書くこと
-
署名していること
-
印鑑を押していること
やってはいけないこと
- パソコンやワープロでの作成
- サインだけ自署
- ビデオや電子メールでの作成
- 夫婦で一つの遺言書の作成(各自で作成する必要があります)
- 「平成27年吉日」などのあいまいな日付の表記
- 戸籍とは異なる名前での署名
- 認め印でもよいができるだけ実印を使用
また、不動産について書く場合に、登記簿上の地番や家屋番号ではなく、住所にて記載している場合には、不動産を特定できずその部分の内容が無効となってしまい、遺言書で相続登記ができなくなってしまうケースもあるので注意が必要です。
(自筆証書遺言)
民法第968条
- 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
- 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
公正証書遺言
「公正証書遺言」は、公証役場で公証人が作成してくれる遺言です。公正証書遺言の作成には費用がかかりますが、様式の不備などで遺言が無効になってしまうリスクがなく、家庭裁判所での検認手続きも不要ですので、すぐに遺言執行の手続きをとることができます。また、遺言書の原本は公証人役場で保管されるので、紛失のリスクもありません。
自筆証書遺言と違って、公正証書遺言では、2人以上の証人の立会いが必要となります。身内の方は証人にはなれませんので、注意が必要です。また、公証役場で証人を紹介してもらうことも可能です。公証役場に足を運べない場合には、自宅や病院に公証人に来てもらうことも可能です。
公正証書遺言は、作成する手間や費用がかかり、証人も2人必要なので、自筆証書遺言のように気軽に書き直しができないかもしれませんが、せっかく作成した遺言の一部や全部が無効となってしまうリスクがありませんので、大事な財産分けについて確実な遺言を残したい場合には、やはり公正証書遺言になるでしょう。実際に、上記資料をみても、公正証書遺言を選択される方が多いのは、確実に「有効な」遺言を残すことを選択された結果です。
(参考)日本公証人連合会 遺言Q&A
「そもそも遺言とは何なのか」から「遺言公正証書作成の手数料」まで、遺言を巡る様々な疑問や諸問題について、やさしく「Q&A方式」で解説されています。
(公正証書遺言)
民法第969条
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
- 証人二人以上の立会いがあること。
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
- 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
- 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
- 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
遺言書を書いておいたほうがよいケース
1.子供がいないご夫婦の場合
子供のいないご夫婦の場合、相続人は配偶者だけではありません。配偶者以外に、両親も相続人になります。両親が亡くなっていれば、兄弟姉妹や甥姪が相続人になる可能性もあります。
ここで問題は、遺言書がなければ、これらの相続人で、遺産分割協議が必要になるということです。遺産分割協議書には、実印の押印と印鑑証明書の添付が必要です。たとえ配偶者がすべての財産を相続することになったとしても、名義変更等のために、ご両親や兄弟姉妹に実印と印鑑証明書が必要になるのは大変です。
また、兄弟姉妹には、遺留分がありません。ご両親が亡くなっていて兄弟姉妹や甥姪が相続人となる場合には、全財産を配偶者に相続させる遺言書を書いておけば、兄弟姉妹や甥姪から遺産分割のみならず遺留分を求められる心配もなくなりますので、配偶者の生活を守ることが可能となります。
2.子供が未成年の場合
子供がいる場合、相続人は、配偶者と子のみになりますが、遺言書がなければ、親子でも遺産分割協議が必要になります。さらに、子供が未成年の場合には、子供一人につき、特別代理人を一人選任して、裁判所に申し立てする必要があります。遺産分割協議においては、親は特別利害関係になるため、特別代理人は親以外の方を選任する必要があり、遺産分割協議書に署名・捺印してもらったり、戸籍謄本、住民票、身分証明書などを用意してもらわなくてはなりません。
この点、遺言書があれば、特別代理人なしで、相続手続きが可能となります。
(参考)裁判所ホームページ 特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)
遺産分割協議における特別代理人の選任手続きの概要と申し立ての方法などについて解説されています。
3.親族関係が複雑な場合
先妻の子と後妻の子がいる場合など、親族関係が複雑で、遺産分割で争う可能性が高い場合には、遺言書の作成が必須です。先妻の子と後妻の子は異母兄弟でともに相続人となりますが、面識がないケースが多いでしょうし、面識があったとしても話し合いがまとまらない可能性が高いので、遺言書の作成を行っておくべきです。
子同士の仲が悪いときも同様です。
また、内縁関係にある配偶者に財産を渡したいときには、正式な婚姻関係のない方には相続権がありませんので、同居していた自宅などは他の相続人の名義となり、自宅から追い出されてしまったり、自宅を他の相続人から買い取るための資金が必要になったりする可能性があります。このようなことにならないように、内縁関係にある配偶者に財産を残したい場合には、遺言書を書いておくべきです。
4.特定の子に多くの財産を分けたい場合
民法で定める子の法定相続割合は同じ割合になります。同居して世話をしてもらった子や事業を引き継いだ子などに自宅や株式などの特定の財産を含めて多くの財産を残してあげたい場合には、後の争いや遺恨を残さないためにも、遺言書を作成しておくべきです。この場合には、遺言書にその理由を明記しておくとよいでしょう。
「相続人」とは?
民法では、相続人の範囲と順位について次のとおり定めています。
- 被相続人の配偶者は、常に相続人となります。
- 次の人は、次の順序で配偶者とともに相続人となります。
- 被相続人の子
(子が被相続人の相続開姑以前に死亡しているときなどは、孫(直系卑属)が相続人となります。) - 被相続人に子や孫(直系卑属)がいないときは、被相続人の父母
(父母が被相続人の相続開始以前に死亡しているときなどは、被相続人の祖父母(直系尊属)が相続人となります。) - 被相続人に子や孫(直系卑属)も父母や祖父母(直系尊属)もいないときは、被相続人の兄弟姉妹
(兄弟姉妹が被相続人の相続開始以前に死亡しているときなどは、被相続人のおい、めい(兄弟姉妹の子)が相続人となります。)
- 被相続人の子