少人数私募債の駆け込み発行は封じ込め-平成26年度税制改正大綱解説
少人数私募債とは?
少人数私募債とは、会社が事業資金を調達する手段として発行する「社債」のひとつで、少人数の取引先や同族関係者などから直接資金を募るものです。
少人数私募債では、公募債を発行する際に求められる有価証券届出書や報告書を提出する義務や、社債の管理を銀行や信託銀行などに委託する義務等が免除され、取締役会の承認のみにで発行できるなど、発行手続きが簡易なのが特徴です。
少人数私募債の要件
少人数私募債の取扱いを受けるには、次のすべての要件を満たすことが必要です。
- 会社が発行する社債であること
社債とは、会社(株式会社・(特例)有限会社・合同会社・合名会社・合資会社)が発行する債券をいい、個人事業主は発行できません。 - 社債の勧誘を行う相手は「少人数(50人未満)の身近な人(取引先や知人など)」であること
社債の実際の引受人が50人未満であればよいのではなく、社債の引受けを依頼する相手の人数が50人未満であることが必要です。
また、社債の引受者から多数の者へ譲渡されるおそれが少ない(譲渡に制限を設ける)ことが条件となります。
これにより、社債の募集に伴う届出や報告の義務が免除されます。 - 社債1口の最低額が発行総額の50分の1よりも大きいこと
社債の総額を3000万円とする場合、1口の最低額は3000万円の50分の1である60万円よりも大きくなければならないということです。
これにより、社債の管理を委託する義務が免除されます。
また、社債1口の額に複数の種類を設けるときは、最低額の整数倍の額であることが必要です。 - 発行総額が1億円未満であること
これにより、社債を募集する相手に有価証券届出書を提出していないこと等を「告知する義務」も免除されます。
少人数私募債の税務上のメリット
少人数私募債は社債ですので、社債利息は税務上損金に算入されます。株式での資金調達の場合、税引後の利益からされる配当金については損金算入されません。
中小企業のオーナーが会社に金銭を貸し付け、利息を受け取った場合には、雑所得として総合課税の対象となり、多額の役員報酬を得ている場合には、所得税・住民税をあわせ、最高で55%(H27より)課税されます。
一方、会社が少人数私募債を発行して中小企業のオーナーが引き受けた場合の社債利息は、「源泉分離課税」により、20%の源泉徴収で完結しますので、税金上有利となる可能性があります。
この税務上のメリットを利用するため、中小企業が少人数私募債を発行してこれをオーナーが引き受け、役員報酬の代わりに少人数私募債の利息を受け取ることにより、役員報酬に適用される税率と利息にかかる20%の差額の節税が可能となっていました。
また、多額の不動産所得のある資産家が、不動産管理会社や資産保有会社(プライベートカンパニー)を設立して、当該会社が個人の不動産を買い取るときの資金調達の手段として少人数私募債を発行するスキームなどにも利用されていました。
平成25年度税制改正
上記のような節税策を封じこめるため、平成25年度税制改正では、同族会社が「平成28年1月1日」以後に少人数私募債を発行し、当該同族会社の役員等が支払を受ける社債利息については、分離課税(20%)を適用せず、総合課税の対象とすることとされました。
ただし、この改正は、「平成27年12月31日」までに少人数私募債を発行すれば、平成28年1月1日以後に支払われる利子についても分離課税(20%)の税率が適用されるものでした。
したがって、平成27年12月31日までに少人数私募債を発行すれば、税務上のメリットを28年以後に支払われる利子についても享受できるため、平成27年末までに償還期間を長期間に設定した少人数私募債を駆け込みで発行しようという動きがありました。
平成26年度税制改正大綱
このような動きを封じ込めるため、平成26年度税制改正大綱では、平成28年1月1日以後に支払われる利子については「総合課税」とすることとされました。
平成27年分までの利子については、現行どおり、分離課税(20%)が適用されます。
(税制改正大綱抜粋)
平成 27 年 12 月 31 日以前に発行された公社債の範囲から、その発行の際に同族会社に該当する会社が発行した社債を除外する。
(注)同族会社が平成 27 年 12 月 31 日以前に発行した特定公社債以外の公社債の利子でその同族会社の株主等が平成 28 年1月1日以後に支払を受けるものは、利子所得の 20%源泉分離課税(所得税 15%、住民税5%)の対象から除外される。